
2025年、価格の高騰が続くプラチナ。7月現在では、1gあたり約7,000円前後で取引されています。そんな中、「プラチナの価値が今後なくなる可能性はないのか?」と心配になる方もいるかもしれません。
本記事では、プラチナは今後も価値を維持できるのか、さらに、価値がなくなるとしたらどのようなケースが考えられるのか、詳しく解説していきます。
・本記事で言及している将来の見通しは、現時点での分析に基づく予測であり、実際の結果とは大きく異なる可能性があります
・本記事は情報提供を目的としており、投資助言や推奨を行うものではありません。貴金属への投資にはリスクが伴います。投資判断はご自身の責任において行ってください。
目次
プラチナは今後価値がなくなる?
プラチナの急激な価格高騰で、価値の不安定さを懸念する方もなかにはいるかもしれません。ただ、中長期的に見るとプラチナの価値が今後なくなる可能性は低いといえます。
新たな需要分野の拡大や供給制約の継続、技術的な重要性などが価値を支えており、むしろ価格上昇が続く見通しです。
2025年1月時点で1gあたり5,000円ほどだったプラチナは、半年間で約2,000円も値上がりしました。背景には以下のような要因があります。
- 供給不足の深刻化
- 需要の急拡大
- 米国の関税政策の影響
今後プラチナの価値は、短期的には乱高下が予想されつつも、中長期的に見るとポジティブな展望のほうが多いです。価格上昇の理由とも重なりますが、プラチナの価値を支える要因として以下が挙げられます。
- 技術的重要性
- 新たな需要分野の拡大
- 供給制約の継続
- 希少性の維持
それぞれについて、見ていきましょう。プラチナは代表的な触媒(化学反応を促進するが、自身は反応の前後で変化しない物質)素材のひとつで、特に自動車の排ガス浄化装置で重要な役割を果たしています。現在は、プラチナ需要の約4割が排ガス浄化装置に依存しているほどです。ただ、内燃機関車におけるプラチナ需要のピークは2025年で、その後は緩やかに減少すると見られています。
いっぽうで期待されているのは、水素社会の発展によるプラチナの新たな需要です。燃料電池、水電解装置においては技術的な代替が難しく、2040年までに年間需要の35%を占める可能性があるとされています。また、地政学的要因による供給不安は続く見通しです。主要産出国(南アフリカ、ロシア、ジンバブエなど)の政情不安、鉱山操業率低下により、2025年は年間30トンの供給不足が予想されています。
そして、金の約22分の1というプラチナの希少性は今後も変わりません。総合的に、プラチナは従来の需要構造から新たな需要分野へシフトしており、価値がなくなるのではなく、価値の源泉が変化していると考えられます。
“金よりも希少”なプラチナの価値
前述の通りプラチナは、金よりも圧倒的に高い希少性を誇ります。プラチナはごく限られた土地でしか採ることができず、年間産出量はもちろん、有史以来の採掘量もプラチナは金の22分の1となっています。
金 | プラチナ | |
年間総供給量(2024) | 4,974トン | 227 トン |
有史以来の採掘量 | 約22万トン | 約1トン |
引用:
金:WORLD GOLD COUNCILのレポート
プラチナ:World Platinum Investment Council、KITCOのレポート
かつてプラチナは、価格においても金よりも高価でした。しかし2008年のリーマンショック以降は、希少性はそのままに、価格は逆転しています。現在、金は約17,000円/gに対し、プラチナは約7,000円/gと、金の価格はプラチナの約2.5倍です。
希少価値と価格の逆転の要因は、用途と需要構造の違いです。金は投資需要が中心で「世界共通の価値基準」として機能し続けているのに対し、プラチナは「主に工業製品に使われる希少金属」として位置づけられています。金は「安全資産」、プラチナは「景気敏感資産」という性質があるのです。
ただしそれも、プラチナがディーゼル車需要の影響を受けやすいから。今後水素社会の本格化による需要拡大で、プラチナの真価が再評価される可能性もあります。
プラチナ価格が下落するとしたら?想定できる5つのケース
プラチナの価値が完全になくなることは極めて考えにくいですが、理論的に価値が下落する可能性があるシナリオを考えてみましょう。以下の4つの状況が現実になった場合、プラチナの価値に深刻な影響を与える可能性があります。
- 技術的代替の進展
- 自動車産業の構造変化
- 宝飾品需要の構造的減少
- 供給面の変化
技術的代替の進展
プラチナの価値が消失するシナリオとして、代替技術の完全な確立が挙げられます。現在、東京大学の砂田教授らが開発した「貴金属フリー触媒」は、鉄とケイ素を組み合わせることでプラチナと同等の触媒性能を実現しています。こうした技術革新が産業レベルで実用化されれば、プラチナの工業需要は激減するでしょう。
参考:東京大学産業技術研究所
自動車産業の構造変化
プラチナ需要の多くを占める自動車産業の変化も重要な要因です。電気自動車の急速な普及により、排ガス浄化装置を必要としない自動車が主流になれば、プラチナの最大の用途が消失します。現在、各国が2030年代以降のガソリン・ディーゼル車販売禁止を打ち出しており、この流れが加速すれば、プラチナの従来需要は急激に減少するでしょう。
いっぽうで期待される燃料電池車の普及も、水素インフラの整備コストや技術的課題による障壁があります。水素ステーションの建設費用は1箇所あたり数億円と高額で、水素の製造・輸送・貯蔵コストも高止まりしています。水素経済の実現に失敗すれば、プラチナの新たな需要源も失われることになります。
宝飾品需要の構造的減少
プラチナの価値を支えるもう一つの柱である宝飾品需要も、構造的な変化に直面しています。婚姻文化の変化により、プラチナがよく用いられるブライダルジュエリーの需要は減少傾向にあります。また、若い世代の価値観の変化やエシカル消費への関心の高まりにより、消費者の好みも他の材料にシフトしています。特に中国では、プラチナ宝飾品需要が低調で、消費者は依然として金を好む傾向が続いています。
供給面の変化
技術革新により新しい採掘技術が開発されれば、これまで困難だった鉱床からの生産が可能になり、供給の大幅な増加が起こる可能性があります。また、リサイクル技術の進歩により、自動車触媒や電子部品から効率的にプラチナを回収する「第二の鉱山」が本格稼働すれば、新規採掘への依存度が下がり、希少性が失われる可能性もゼロとは言えません。長期的には、海底採鉱や小惑星採掘といった革新的な供給源も検討されています。
複合的なシナリオ
最も深刻なのは、複数の要因が同時に発生するケースです。例えば、貴金属フリー触媒の実用化と同時にEV化が進めば、プラチナの産業需要は壊滅的な打撃を受けるでしょう。さらに宝飾品需要の減少と供給過多が重なれば、プラチナの価値は大幅に低下する可能性があります。
プラチナの価値がなくなる可能性は低い
とはいえ、これらのシナリオが現実となり、プラチナの価値が完全に失われる可能性は低いです。水素・燃料電池技術が成功すれば新たな需要が生まれ、また新しい産業用途の開発も期待できます。投資需要や希少性によるプレミア価値も、一定程度は継続すると考えられています
しかし、プラチナ投資を検討する際は、リスク要因も十分に理解し、技術革新や産業構造の変化を注意深く監視することが重要です。プラチナの未来は、技術進歩と社会変化の速度、そして新たな用途開発にかかっていると言えます。
今後も期待できるプラチナの価値
本記事では、プラチナの価値が今後なくなる可能性について詳しく解説しました。結論として、プラチナの価値が完全に失われる可能性は低く、むしろ水素社会の発展により新たな需要が期待されています。
プラチナ価格は高騰しており、高水準はしばらく維持される見込みです。もし、お手元に使わないプラチナ製品がある場合は、現在の価格動向を踏まえて資産の見直しを検討されてもよいかもしれません。まずは価値を確認してみることから始めてはいかがでしょうか。