
ダイヤモンドは、地球上で最も硬く、透明で輝かしい宝石として広く認識されています。その希少性や美しさから非常に高価な宝石として取引されていますが、なぜそれほど高額なのでしょうか?
本記事では、ダイヤモンドが高価な理由をわかりやすく解説するとともに、いっぽうで「ダイヤモンドに希少価値はないのでは?」という声がある背景についても掘り下げ、価格を決める本当の要因を詳しく解説していきます。
目次
ダイヤモンドはなぜ高いのか?
ダイヤモンドがほかの宝石と一線を画して高額で取引される理由には、いくつかの要素が複雑に絡み合っています。
本記事では、次の3つの視点から、その理由を詳しく解説します。
- 採掘・加工にかかるコストの高さ
- 市場に影響を与える大手企業(デビアス社)の存在
- ダイヤモンドそのものが持つ希少性
それぞれの要素がどのように価格に影響しているのか、以下で順に見ていきましょう。
採掘・加工のコストが高い
ダイヤモンドの採掘は非常にコストがかかる作業です。採掘作業自体は、まず適切な場所を見つけることから始まり、深い地下での作業や特殊な機械を使った採掘が必要となります。加えて、採掘地が多くの場合、アフリカの遠隔地にあるため、輸送コストや安全対策のための費用が膨らみます。
さらに、採掘したダイヤモンドを加工するためには、熟練した技術者による高い技術力が求められ、時間とコストがかかります。このように、ダイヤモンドを手に入れるまでには多くの手間と高額な費用がかかるのです。
市場に影響を与える大手企業(デビアス社)の存在
デビアス社は、南アフリカ共和国発祥で、現在はイギリスに本社を置くダイヤモンド企業です。世界最大級のダイヤモンド採鉱・流通・加工・卸売業者であり、現在はアングロ・アメリカン社の子会社となっています。同社は長年にわたり、世界のダイヤモンド市場に強い影響力を持ち続けてきました。
20世紀初頭、デビアス社は世界中で採掘されるダイヤモンドの約9割を買い占め、その流通量をコントロールすることで価格を維持してきました。この市場支配力によって、供給量を意図的に制限し、ダイヤモンドの価値を高水準に保つことが可能だったのです。
近年では、ロシアやカナダ、オーストラリアなどの新たな採掘地の登場により、同社の市場シェアは減少したものの、それでもなお価格形成に大きな影響力を持ち続けています。
※デビアス社についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
▶︎ダイヤモンドの歴史に関するデビアス社についての記事はこちら
ダイヤモンドそのものが持つ希少性
ダイヤモンドの希少性は、その価格が高騰する大きな理由のひとつです。採掘されたダイヤモンドのうち、宝飾品に適した高品質なものは全体の15〜20%程度にとどまり、残りは工業用に回されます。
さらに、ダイヤモンドが産出される地域は地質条件により限定されており、ロシア、ボツワナ、カナダ、南アフリカなど、特定の国の一部鉱山に集中しています。こうした限られた供給源により、ダイヤモンドは非常に希少な資源として扱われており、その価値は年々高まっています。
※なお、ロシア産のダイヤモンドについては、2022年以降のウクライナ侵攻を受けて、G7諸国を中心に輸入規制が段階的に強化されています。日本でも2024年以降、一定の重量や原産地を基準とした規制が導入されており、今後の流通量や価格形成に影響を与える可能性があります。
参考:政府、ロシア産ダイヤを輸入禁止 G7と協調し戦費調達を妨害|朝日新聞
ダイヤモンドは希少価値がない?に関する真相
これまでお伝えしてきた内容のいっぽうで、ダイヤモンドにはもはや希少価値がないという声もあります。採掘量が増加した現代において、実際にダイヤモンドの希少性はどのように変化しているのでしょうか?
【真相1】ダイヤモンドの採掘量は増えている?
2023年に世界で採掘されたダイヤモンドの量は、合計で約1億2,600万カラットとされています(※原石の状態)。 この数字は、過去20年間で最も多かった2005年の約1億7,700万カラットと比べて大きく減少しており、近年の生産量はむしろ減る傾向にあります。
また、この採掘量のなかには工業用や小粒で宝飾に適さないものも多数含まれており、ジュエリーとして流通できる高品質なダイヤモンドはごく一部に限られます。
市場に出回るダイヤモンドは減少傾向にあることから、天然ダイヤの希少性は今も維持されているといえるでしょう。
※データ参考:2023ダイヤモンド原石国別統計データ|TDE
【真相2】デビアス社による支配力は弱まっている?
デビアス社は20世紀において、ダイヤモンド市場をほぼ独占的に支配していた巨大企業です。世界中の原石の流通量をコントロールすることで、市場価格を意図的に安定させ、高水準を維持する仕組みを構築してきました。
しかし、近年ではその支配力が徐々に弱まりつつあります。背景には以下のような複数の要因が存在します。
- ロシア(アルロサ社)やカナダ、オーストラリアなど新興採掘国の台頭により、原石供給の多極化が進んだこと
- 親会社であるアングロ・アメリカン社の業績不振や構造改革により、デビアスへの投資や開発が抑制されていること
- 世界的な経済不安やインフレ、金利上昇により、ダイヤモンド需要が減退しつつあること
とくに2024年以降は、中国や米国など主要市場でのジュエリー需要の冷え込みにより、デビアス社の売上は大幅に減少。2025年には、アングロ・アメリカン社がデビアス事業の売却を検討していると報じられるなど、かつての「市場の支配者」としての地位は明らかに揺らいでいます。
このように、長年にわたって築かれてきた「希少性の演出」や「価格統制の仕組み」が崩れつつあることで、市場では「ダイヤモンドはもう希少ではないのでは?」と感じる人が増えているのも事実です。
とはいえ現在も、デビアス社はダイヤモンド原石の供給において一定のシェアを保っており、価格形成への影響力は依然として無視できません。
※参考:ダイヤ業界危機でデビアス評価額をさらに引き下げ-アングロ|Bloomberg
※参考:苦境のダイヤモンド業界に米関税が「ダメ押し」 価格は2年で半額に|ForbesJAPAN
ダイヤモンドを安く買う方法
天然ダイヤモンドは高価な宝石ですが、購入時期や入手ルートを工夫することで、価格を抑えて手に入れることも可能です。以下では、天然ダイヤを安く購入するための具体的な方法を紹介します。
セール・決算期・キャンペーンを狙う
百貨店や正規販売店では、決算期や周年祭などのタイミングでセールを実施することがあります。とくに、2月・3月・8月・12月などは販促強化月間として特価販売されるケースがあるため、キャンペーン情報をチェックしておくとお得に入手できる可能性があります。
オークションサイトを利用する
「Yahoo!オークション」などの実績あるオークションサイトでは、市場価格より安くダイヤモンドを入手できることがあります。
ただし、信頼性は出品者ごとに異なるため、鑑定書の有無や返品保証の有無、出品者の評価・実績を必ず確認しましょう。
とくに、法人(ストア)出品や評価の高い出品者からの購入を選ぶと、トラブルのリスクを抑えることができます。
リユースショップでの購入
リユースショップや中古市場でも、天然ダイヤモンドをお得に購入することができます。とくに鑑定書が付いている商品を選ぶことで、品質面の安心感があります。
新品に比べて価格が抑えられているため、予算に応じたダイヤ選びが可能です。状態の良い中古品であれば、見た目も美しく、実用性も十分です。
人工ダイヤモンドという“コスパ重視”の新しい選択肢
近年では、人工ダイヤモンド(ラボグロウンダイヤモンド)と呼ばれる製品が注目を集めています。これは、天然ダイヤモンドと同じ炭素から人工的に生成された宝石で、見た目や硬度、輝きもほぼ同等です。
生産技術の進化により価格が下がっており、2025年時点では、天然の約8〜9分の1の価格で購入可能です。以下は参考価格の一例です。
種類 | 参考価格(1カラット) |
---|---|
天然ダイヤモンド | 約60万〜80万円($4,400〜5,500) |
人工ダイヤモンド | 約8万〜9万円($550〜600) |
ジュエリーとして楽しむだけでなく、費用を抑えたい方や環境負荷を気にする方におすすめ。
ただし、将来的な資産価値やリセールバリューの面では、天然ダイヤモンドに劣る傾向があります。購入の目的(ジュエリーとして楽しむ/資産として保有する など)に応じて選ぶことが大切です。
※参考:MBSニュース:人気高まる人工ダイヤモンド
※参考:StoneAlgo:人工ダイヤの価格動向
ダイヤモンドが高いのは「本質的価値」と「人為的な価値づけ」が組み合わさっているから
ここまで解説してきた通り、ダイヤモンドが高いのは単に希少だからではありません。
採掘・加工にかかる実質的なコストや、高品質な原石がごく一部しか流通しない希少性、そして長年にわたり流通をコントロールしてきたデビアス社などの戦略的な価格形成が複雑に絡み合っています。
つまり、ダイヤモンドの価格には「物理的に価値のある部分」と、「人為的に価値を保たせている部分」の両方が存在しており、その両面によって“高価な宝石”という地位が支えられているのです。
いっぽうで、近年は人工ダイヤモンドの普及や価格下落、デビアス社の影響力低下などによりダイヤモンドを取り巻く市場構造には変化が生まれつつあります。とはいえ、天然ダイヤモンドが持つ象徴的価値やブライダル・資産用途での需要は依然として根強く、今後も高値で取引される傾向は続くと考えられます。
ダイヤモンドの購入や売却を検討する際には、価格の背景や市場の仕組みを理解したうえで、自分の目的に合った選択をすることが重要です。