
パテックフィリップが高額である理由は、単に「高級ブランドだから」という一言では説明できません。
生産体制や技術力、品質へのこだわり、さらに長期的な価値を前提とした考え方など、さまざまな要素が積み重なって価格が形づくられています。
本記事では、パテックフィリップがなぜここまで高いのかを5つの視点から整理し、購入方法の違いや、人気のモデルまでを分かりやすく解説します。
目次
パテックフィリップはなぜ高い?5つの理由を解説

パテックフィリップが高額なのは、いくつもの要因が重なっています。
ここでは、パテックフィリップが高額である5つの理由を、「内容」と「価格への影響」という視点で整理しました。
| 理由 | 内容 | 価格への影響 |
|---|---|---|
| ブランド価値 | 歴史・評価・オークション実績が長期で安定 | 価格が下がりにくい土台になる |
| 生産本数の少なさ | 年間約6万本前後、構造的に大幅な増産が難しい | 需給ギャップが価格を押し上げる |
| 技術力 | 複雑機構を継続・安定製造できる | 製造コスト+技術プレミアが発生 |
| 仕上げ・検査基準 | パテックフィリップ・シール | 不合格前提の基準=原価上昇 |
| 永久修理体制 | 世代を超えた修理対応 | 長期価値・資産性を支える |
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それでは詳しく解説していきます。
「世界三大ブランド」として確立された圧倒的なブランド価値
パテックフィリップは、オーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンと並び「世界三大時計」の一角を担うブランドとして挙げられることが多い存在です。
時計界の頂点に位置づけられることから、一般的な高級時計とは一線を画す存在として「雲上ブランド」とも表現されます。
ブランド価値は、広告やイメージ戦略によって短期的に作られたものではなく、長い歴史の中で積み重ねられてきた時計史上の評価やオークション実績、専門家・コレクターからの長期的な支持によって形成されています。
この「評価の安定性」こそが、価格が高水準で維持され続ける大きな理由のひとつです。
生産体制そのものが生む「希少性」の高さ
パテックフィリップの年間生産本数は、各種報道によると約6万本前後と推計されています。これは、量産体制を持つ高級時計ブランドと比較すると、桁違いに少ない水準です。
たとえばロレックスは、業界関係者の推計では年間約200万本規模(※)とされており、パテックフィリップの供給量がいかに限られているかが分かります。
重要なのは、パテックフィリップが希少性を演出するために生産数を意図的に抑えているわけではないという点です。
実際には、複雑機構の製造や手作業工程の多さ、厳格な検査基準といった要素が重なり、需要があっても生産数を大きく増やせない構造になっています。このように、品質と完成度を最優先する生産体制そのものが供給を制限しており、その結果として入手難易度が高まり、価格にも反映されています。
(※)ロレックスの生産本数は公式発表ではなく、業界推計に基づくものです。
複雑機構を安定供給する世界最高峰の「技術力」
パテックフィリップは、トゥールビヨンや永久カレンダー、ミニッツリピーターといった高度な複雑機構を、特別な限定モデルとしてではなく、継続的に製造・供給できる体制を整えています。
多くのブランドが複雑機構を「作れること」自体を価値とするいっぽうで、パテックフィリップは将来のメンテナンスや部品供給までを見据えた設計を行っています。このように、技術力を一過性のものではなく長期運用できる形で成立させている点が、価格に直結しています。
最高品質を保証する「パテックフィリップ・シール(独自検査基準)」
パテックフィリップでは、外装の美しさだけでなく、ムーブメントの裏側や通常は目に触れない部品にまで徹底した仕上げが施されます。
自社独自の厳格な品質基準(パテックフィリップ・シール)を満たした個体のみが出荷されます。この「厳格な基準を満たすことを前提とした製造体制」が、1本あたりの製造コストを押し上げています。
一生モノを約束する「永久修理」のアフターサービス
パテックフィリップは、すべての時計について可能な限り将来にわたって修理対応を継続する方針を掲げています。
実際に、100年以上前に製造されたモデルであっても、状態や部品に応じて修理相談を受け付けており、この姿勢は時計業界の中でも極めて稀なものです。
こうした長期修理対応を維持するためには、部品の長期保管や再製作、熟練技術者の育成と継承など、ブランド側にとって大きなコストと責任が伴います。
それでもこの体制を続けているからこそ、パテックフィリップの時計は単なる嗜好品にとどまらず、世代を超えて受け継がれる価値を持つ存在として評価され続けています。
高いのも納得!パテックフィリップの名作モデル
パテックフィリップの名作と呼ばれるモデルは、単に人気が高いから高額なのではありません。設計・加工精度・実用性・完成度が、それぞれ異なる方向から極限まで突き詰められ、「高いのも納得できる理由」がモデルごとに明確に存在しています。
ここからは、その価値が実際の時計としてどのように形になっているのかを、代表的な名作モデルを通して具体的に見ていきます。
ノーチラス(Nautilus)

ノーチラスは、一見するとシンプルなスポーツウォッチに見えますが、その構造自体が非常に高い設計スペックを要求するモデルです。
ケースとブレスレットが一体化した構造は、パーツ同士の精度が少しでも狂うと成立しません。設計段階からミクロン単位での精度が求められ、加工や仕上げの工程も通常の時計よりはるかに難易度が高くなります。
派手な装飾や複雑機構に頼らず、構造そのものの完成度と加工精度で価値を成立させている点がノーチラスの特徴です。
生産本数が限られる中で世界的な需要が集中している点も、こうした完成度があってこそ成立しています。実際、Ref.5711/1A-018(通称ティファニーブルー)は、チャリティオークションで650万3000ドル(約7億3800万円)以上で落札されました。
ノーチラスが高額で取引されるのは、単なる人気モデルだからではなく、「この構造をこの品質で作れるブランドがほとんど存在しない」からこそ、この価格になったといえます。
出典:ティファニー ブルーのパテック フィリップ ノーチラス 5711がフィリップス・ニューヨークで650万ドル(約7億3800万円)以上で落札|HONINKEE
カラトラバ(Calatrava)

カラトラバは、パテックフィリップの哲学を最も純粋な形で表したモデルです。装飾を足さず、複雑機構も持たない。それでもなお高く評価され続けています。
このモデルが追求しているのは、「時間を正確に、美しく示す」ことだけ。文字盤のバランス、針の長さ、ケースの厚みと曲線。そのすべてが、引き算の美学によって成立しています。
その証拠に、初期モデルであるRef.96は、ヴィンテージ市場やオークションで高い評価を受けています。たとえば、ステンレス素材のRef.96が約38万スイスフラン(約500万円)で落札された例や、18金モデルが約33万スイスフラン(約400万円)といった記録的な価格で取引された例があります。また、2024年には約45,000ドル(約600万円)でも落札され、高額評価を受け続けています。日本の時計愛好家の間では、リファレンス番号に由来して「クンロク」と呼ばれることもあり、流行に左右されず、時代を超えて価値を保ってきました。
出典:A Collector’s Guide to the Patek Philippe Calatrava Ref. 96|Collectability
アクアノート(Aquanaut)

アクアノートは、パテックフィリップの中では普段使いを前提に作られています。ラバーストラップや防水性能を備え、日常的な使用に耐える仕様になっていますが、そのいっぽうで、時計として求められる基本性能の水準が非常に高い点が特徴です。
ケースやベゼルには、面ごとに磨き分けを行う精緻な仕上げが施されており、耐久性と美観を両立させています。こうした外装の作り込みは、量産的なスポーツウォッチとは一線を画すもので、製造工程やコストにも大きく影響します。
内部に搭載されるのは、パテックフィリップ独自の厳格な基準を満たした自社製ムーブメントです。スポーティな外観でありながら、精度や耐久性はドレスモデルと同等の水準が求められています。
オークションで記録的な高額落札が続くタイプではありませんが、世界中で安定した価格で取引されているのは、実際に使える性能と確かな作りが評価されているからといえます。
コンプリケーション(Complications)

パテックフィリップの技術力を最も分かりやすく示すのが、コンプリケーションモデルです。永久カレンダーやミニッツリピーターといった複雑機構は、部品点数が多く、設計・調整に高度な技術と膨大な時間を要します。これらを正確に動作させるには、通常の時計とは比較にならないレベルの製造精度が求められます。
複雑機構は、搭載する機能が増えるほど構造が複雑になり、製作できる時計師や工房も限られます。その結果、製造コストそのものが高くなり、価格にも直接反映されるのがコンプリケーションモデルの特徴です。パテックフィリップのコンプリケーションが高額になるのは、ブランドイメージではなく、搭載されている機構の難易度と情報量(スペック)が突出しているからといえます。
その価値がどこまで評価されているかを端的に示すのが、オークションでの取引実績です。2019年にジュネーブで開催されたチャリティオークション「Only Watch 2019」において、グランドマスター・チャイム Ref.6300A-010が3100万スイスフラン(約34億円)で落札されました。
ノーチラス、カラトラバ、アクアノート、そしてコンプリケーション。これらはいずれも、「ブランドだから高い」のではなく、設計・精度・実用性・技術力という異なる方向から完成度を極限まで高めた結果、高い価格が成立しているモデルです。
パテックフィリップの人気モデルについて、より詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
>>パテックフィリップの人気モデルまとめ
パテックフィリップはどこで買う?3つの購入方法を比較
価格や価値を理解したうえで次に悩みやすいのが、「どこで購入するか」という点です。
ここでは、代表的な3つの購入方法について、それぞれの特徴を比較します。
正規店で買うメリット・デメリット
正規店での購入は、信頼性の面では最も安心できる選択肢です。新品・正規保証・アフターサービス体制が万全で、真贋や状態について不安を感じることはほとんどありません。
いっぽうで、パテックフィリップは生産本数が極めて少ないため、正規店で希望モデルをすぐに購入できるケースは非常に限られます。とくに人気モデルは、予約自体が難しく、予約が可能でも入手に数年を要するケースも出てきています。
また、近年では転売対策として一部モデルに購入制限(1人1点など)や保証書の預かり制度が設けられている正規店もあり、同じモデルを複数購入しづらい状況になっている点もデメリットとなっています。
以下の記事ではより詳しく正規店で購入できない理由について紹介しています。あわせて確認ください。
>>パテックフィリップが正規店で購入できない理由についてはこちら
並行輸入のメリット・デメリット
並行輸入は、正規店では入手が難しいモデルでも在庫が見つかりやすく、選択肢の幅が広がる点が最大のメリットです。タイミングや状態によっては、正規価格よりも抑えた価格で購入できる場合もあります。
ただし、販売店ごとに保証内容やアフターサポートの条件が異なり、正規店と同等の安心感が得られないケースもあります。信頼できる販売店を選ばないと、購入後のトラブルにつながる可能性がある点には注意が必要です。
さらに、並行輸入で購入する際は偽物時計のリスクについても理解しておく必要があります。パテックフィリップは人気と希少性が高いことから、巧妙な偽物が流通している例も多く、真贋を見抜く知識がないと本物と思って購入した時計が偽物だったというリスクもあります。
以下の記事では、パテックフィリップの偽物を見分ける方法について、詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
>>パテックフィリップの偽物の見分け方はこちら
中古販売店のメリット・デメリット
中古販売店は、価格・在庫・現実性のバランスが取れた購入ルートです。生産終了モデルやヴィンテージモデルなど、新品では手に入らない選択肢が豊富なのが大きな魅力といえます。
いっぽうで、時計の状態や付属品の有無、保証内容には個体差があります。そのため、真贋鑑定やメンテナンス体制が整った専門店を選ぶことが重要です。信頼できる中古店であれば、パテックフィリップを現実的に手に入れる方法として十分検討する価値があります。
パテックフィリップが高いのには理由がある!
パテックフィリップの価格は、単なるブランドイメージや希少性だけで決まっているものではありません。生産体制、技術力、製造哲学、そして世代を超えて使い続けることを前提とした思想まで、すべてが価格に反映された「価値の総和」といえます。
どこで購入する場合でも重要なのは、「価格」だけを見るのではなく、その背景にある価値を理解したうえで選ぶことです。納得して選んだ一本は、所有する満足感だけでなく、長期で価値が評価されやすい傾向はありますが、相場はモデルや状態、市況によって変動します。
パテックフィリップの売却や買い替えを検討する際は、時計の価値を正しく評価できる専門店に相談することが重要です。適切な知識と実績を持つ買取店を活用することで、大切な一本を安心して次につなげることができます。

